専門家活用 › 事業承継における専門家チームの構成
事業承継における専門家チームの構成
事業承継における専門家チームの構成
「一人の専門家」では解決できない理由と、最適なチームの作り方
事業承継は相続・税務・法務・経営・労務が複雑に絡み合う問題です。税理士1人や弁護士1人に任せれば全て解決するわけではなく、局面ごとに異なる専門家が連携するチーム体制が不可欠です。誰が何を担当し、どの順番で動くかを理解することが、円滑な事業承継の第一歩です。
事業承継チームの全体像
🏢 事業承継の中心に「オーナー経営者・後継者」がいて、6つの専門家が連携します
中心
オーナー経営者
+ 後継者(子・従業員など)
↕ 各専門家と連携 ↕
税務・評価の核心
税理士
株式評価・事業承継税制・相続税申告
法的リスク・争い
弁護士
遺留分・株主間契約・事業譲渡契約
登記・法人手続き
司法書士
株式移転登記・役員変更登記
中長期経営設計
中小企業診断士
事業計画・経営者能力評価・補助金
労務・従業員対応
社会保険労務士
雇用継承・就業規則・退職金規程
資金調達・M&A
金融機関・M&A仲介
融資・MBO支援・第三者承継
💡 全員が常に必要なわけではありません。承継の方法(親族内・従業員・M&A)とフェーズによって関与する専門家が変わります。
各専門家の役割と業務範囲
税理士(事業承継専門)
事業承継の最重要専門家
非上場株式の評価(純資産・類似業種比準・配当還元)
事業承継税制(特例措置)の適用・計画書作成
生前贈与・相続を組み合わせた株式移転設計
オーナー個人の相続税申告・納税資金確保
役員退職金・生命保険を活用した株価引き下げ
二次相続を見据えた分割設計・遺言内容の調整
弁護士
法的リスク・争い・契約の専門家
遺留分侵害リスクの分析と対策(後継者への株式集中で発生)
株主間契約書・経営権移転契約書の作成
事業譲渡・会社分割・合併の法的手続き
相続人・株主間の争いが発生した場合の代理交渉
遺言書(公正証書)の内容設計・遺言執行者
個人保証(経営者保証)の解除交渉サポート
司法書士
登記・不動産の手続き専門家
株式・持分の移転に伴う登記申請
役員変更登記(代表取締役の交代)
事業用不動産の相続登記・名義変更
会社設立・組織変更(合同会社化等)の登記
家族信託を活用した自社株の信託登記
中小企業診断士
経営・事業計画の専門家
後継者の経営能力評価・育成計画の策定
承継後の中期経営計画・事業計画の作成
事業承継補助金・M&A補助金の申請サポート
金融機関向けの事業継続性説明資料の作成
M&Aの際の企業価値評価(DCF法・EBITDAなど)
社会保険労務士
従業員・労務の専門家
事業承継に伴う雇用契約・就業規則の見直し
役員退職金規程の設計(株価引き下げとの連携)
M&A・事業譲渡時の労働条件引き継ぎ対応
従業員への承継に関する情報開示・説明会対応
社会保険・労働保険の名義変更・継続手続き
金融機関・M&A仲介
資金・第三者承継の専門家
後継者のMBO(自社株買取)向け融資・アドバイス
第三者承継(M&A)の買い手探し・マッチング
事業承継ファンドの活用サポート
相続税納付のための融資・保険の設計
経営者保証解除に向けた金融機関との交渉
⚠️ 事業承継専門の税理士が「チームのコーディネーター」になることが多いです。税理士を起点に弁護士・司法書士・社労士が動く体制が、最もスムーズに機能します。
フェーズ別 — どの専門家がいつ動くか
生前準備フェーズ(5〜10年前〜)
承継実行フェーズ(1〜3年)
承継完了後フェーズ
生前①自社株の現状評価と承継シナリオの設計
まず税理士が自社株の現在の評価額を算定します。評価額が高すぎると後継者が相続税・贈与税を払えなくなるため、承継前の株価引き下げ策(役員退職金・生命保険・持株会の活用など)を設計します。同時に、親族内承継・従業員承継・M&Aのどの方法が最適かを検討します。
税理士(中心)
弁護士(遺言・遺留分確認)
中小企業診断士(経営計画)
生前②事業承継税制(特例措置)の活用検討
「事業承継税制の特例措置」(2027年3月末までに特例承継計画を提出が必要)を活用すれば、後継者への自社株贈与・相続の税額を100%猶予(条件を満たせば免除)できます。税理士が特例承継計画書を作成し、都道府県知事への提出・経済産業省への確認申請を進めます。この制度の期限に間に合うかどうかが最重要の時間的制約です。
税理士(必須)
都道府県・経産省への申請
期限:特例計画は2027年3月末
生前③遺言書の作成・遺留分対策
後継者に自社株を集中させる場合、他の相続人(兄弟姉妹など)の遺留分を侵害するリスクがあります。弁護士が遺留分を計算し、遺留分相当額を現金・保険金で準備する設計を行います。遺言書(公正証書)の内容は弁護士・税理士が協議して作成します。「付言事項(遺言者の思いを記す部分)」の記載も有効です。
弁護士(遺言書・遺留分対策)
税理士(納税資金確保)
実行①自社株の贈与・売買・相続による移転
具体的な株式移転を実行します。贈与の場合は贈与税申告(税理士)と贈与契約書(弁護士または税理士)が必要です。売買の場合は適正価格での売買契約書(弁護士)・資金調達(金融機関)・登記(司法書士)が同時進行します。事業承継税制を利用する場合は贈与税・相続税の申告書への記載が必須で、税理士への依頼が実質必須です。
税理士(申告・評価)
弁護士(契約書)
司法書士(登記)
金融機関(融資)
実行②役員交代・経営権の移転
代表取締役の変更は株主総会の決議→登記申請という手順が必要です。司法書士が変更登記を申請します。金融機関への届出(代表者変更)・取引先への挨拶状・許認可の名義変更(業種によっては行政書士が対応)も同時に進めます。従業員への説明・就業規則の確認は社会保険労務士が関与します。
司法書士(登記・必須)
社労士(就業規則・従業員対応)
行政書士(許認可名義変更)
実行③(M&Aの場合)第三者承継(M&A)の実行
後継者不在で第三者承継(M&A)を選択する場合は、M&A仲介・FA(ファイナンシャルアドバイザー)が買い手企業を探します。デューデリジェンス(買収監査)では税理士・弁護士が法務・税務面を担当。最終契約(最終合意書・株式譲渡契約書)は弁護士が作成します。売却後のオーナーの相続税対策は税理士が担当します。
M&A仲介・FA(マッチング)
弁護士(契約書・DD)
税理士(税務DD・売却後対策)
承継後①事業承継税制の猶予継続・年次報告
事業承継税制(特例措置)を利用した場合、税額の猶予を継続するために毎年・5年間の報告義務があります。「年次報告書」(1〜5年目は毎年、6年目以降は3年ごと)を税務署・都道府県に提出し続けることで猶予が維持されます。要件を満たさなくなると猶予税額と利子税が一括請求されるため、承継後も税理士との継続的な関与が必須です。
税理士(年次報告・継続必須)
5年間の継続報告義務あり
承継後②先代オーナーの相続発生時の対応
事業承継後に先代オーナーが亡くなった場合、残された個人財産(自宅・預貯金等)の相続手続きが発生します。自社株は既に後継者に移転していても、「みなし相続財産(死亡保険金)」や「相続開始前7年以内の贈与の加算」などに注意が必要です。事業承継時から関与してきた税理士が個人の相続税申告も担当することで、一貫性のある対応が可能です。
税理士(相続税申告)
司法書士(不動産相続登記)
弁護士(遺言執行・争い対応)
承継後③後継者の経営基盤強化・次世代への備え
事業承継が完了しても、後継者自身がいずれ次の代への承継を考える必要があります。承継直後から「後継者の個人資産の形成」「法人・個人の税務最適化」「次の世代への株式承継計画」を中小企業診断士・税理士と設計しておくことが、長期的な企業存続につながります。
税理士(法人・個人の継続顧問)
中小企業診断士(経営計画)
承継方法別 — 必要な専門家チームの違い
ケース①子への親族内承継(株式を子に集中させるケース)
最も一般的なパターン。後継者(子)への自社株の贈与・相続を軸に、他の兄弟姉妹の遺留分対策・相続税の納税資金確保が主要課題。事業承継税制の活用で贈与税・相続税を猶予できる可能性があります。
👥 コアチーム:事業承継専門の税理士(必須)+ 弁護士(遺言・遺留分)+ 司法書士(登記)
💡 早ければ早いほど選択肢が広がります。理想は承継予定の10年前から税理士と計画を開始。
💡 早ければ早いほど選択肢が広がります。理想は承継予定の10年前から税理士と計画を開始。
ケース②従業員・役員への承継(MBO・社員への売却)
後継者となる従業員・役員が「お金がない」問題をどう解決するかが最大の課題。金融機関からのMBO融資・株式の分割購入・持株会の活用などを組み合わせます。後継者の経営スキル育成・金融機関への信用力証明も重要です。
👥 コアチーム:税理士(株価評価・税制)+ 金融機関(MBO融資)+ 中小企業診断士(事業計画・補助金)+ 弁護士(株式売買契約)
💡 MBO融資は「後継者の事業計画」の説得力が鍵。診断士との事業計画作成が先決。
💡 MBO融資は「後継者の事業計画」の説得力が鍵。診断士との事業計画作成が先決。
ケース③第三者承継(M&Aによる売却)
後継者が見つからない場合の選択肢。企業を売却して廃業を回避し、従業員の雇用・取引先との関係を継続します。売却価格の最大化・買い手との交渉・従業員の処遇の交渉が主要課題。売却後の手取り額に対する税務(譲渡所得税)も重要です。
👥 コアチーム:M&A仲介・FA(買い手探し)+ 弁護士(契約書・DD)+ 税理士(税務DD・売却後の税務)+ 社労士(従業員処遇)
💡 M&A仲介は売り手・買い手双方から手数料を取る「両手仲介」に注意。FAの独立性を確認。
💡 M&A仲介は売り手・買い手双方から手数料を取る「両手仲介」に注意。FAの独立性を確認。
ケース④相続が先行してしまったケース(突然の死亡・争いあり)
準備なく経営者が突然亡くなった場合、自社株が相続人全員に分散し、経営が混乱します。「誰が経営権を持つか」「株式をどう集約するか」「相続税をどう払うか」を同時進行で解決しなければなりません。時間的プレッシャーの中で複数の専門家が緊急連携します。
👥 緊急チーム:弁護士(遺産分割・経営権確保・交渉)+ 事業承継税理士(10ヶ月以内の申告)+ 司法書士(登記・後見)+ 金融機関(納税資金)
⚠️ このケースでは弁護士を最初の相談先にしてください。経営混乱を防ぐ法的措置が最優先です。
⚠️ このケースでは弁護士を最初の相談先にしてください。経営混乱を防ぐ法的措置が最優先です。
チーム選び・進め方の注意点
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「何でも対応できる」と言う一人の専門家への全面依存は危険事業承継は税務・法務・登記・労務・経営が一体で絡む問題であり、一人の専門家が全てに精通することはできません。「うちで全部引き受けます」と言う専門家が実際には専門外の業務を行い、申告漏れ・契約ミス・登記遅延を起こすリスクがあります。各分野の専門家が明確な役割分担でチームを組む体制を確認してください。
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事業承継税制の特例措置の期限を見逃さない事業承継税制の特例措置(贈与税・相続税の100%猶予)を利用するには、2027年3月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります。この期限を過ぎると特例措置は使えなくなり、通常の高い税率が適用されます。「そのうち税理士に相談しよう」と先送りにすると取り返しのつかない機会損失になります。
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会社の顧問税理士が「事業承継専門」とは限らない長年の顧問税理士が信頼できる存在でも、事業承継・非上場株式評価・事業承継税制の専門家とは限りません。日常の法人税申告と事業承継税務は全く異なる専門領域です。顧問税理士に「事業承継の年間件数は何件か」を確認し、少ない場合は事業承継専門の税理士へのセカンドオピニオンを取ることを強く推奨します。
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M&A仲介は利益相反リスクがあることを理解する多くのM&A仲介業者は売り手・買い手の両方から手数料(成功報酬)を受け取る「両手仲介」です。このため、売却価格を最大化することよりも早期成約を優先するインセンティブが働くことがあります。売り手として最大の利益を得るには、売り手専属のFA(ファイナンシャルアドバイザー)に依頼する方が中立的なアドバイスを受けられます。
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「事業承継コーディネーター」として税理士を中心に据える最もスムーズに機能するチーム体制は、「事業承継専門の税理士をコーディネーターとし、税理士が弁護士・司法書士・社労士を必要に応じて招集する」形です。事業承継の全体像は税務設計が軸となるため、まず事業承継専門の税理士に相談し、そこから必要な専門家を紹介してもらうのが最も効率的です。
専門家チーム選びのチェックリスト
依頼前に確認すること(チェックして進捗を管理)
0 / 12 確認済み
税理士(事業承継の核心)
✓
事業承継の年間件数を確認した(10件以上が目安。少ない場合はセカンドオピニオン推奨)最重要✓
事業承継税制(特例措置)の活用実績があるか確認した重要✓
非上場株式の評価経験(純資産・類似業種比準方式の両方)があるか確認した重要✓
弁護士・司法書士・社労士との連携体制を持っているか確認した確認推奨弁護士(法的リスク・契約)
✓
事業承継・M&A・遺言執行の実績があるか確認した重要✓
遺留分対策(民法上の問題)と税務(税理士の領域)を切り分けて説明できるか確認した確認推奨M&A仲介(第三者承継の場合)
✓
売り手・買い手の「両手仲介」か「売り手専属(FA)」かを確認した最重要✓
手数料体系(着手金・中間報酬・成功報酬)を書面で確認した重要✓
同業種・同規模の案件の成約実績を確認した確認推奨共通 — 避けるべきサイン
✓
「全部うちで対応できます」と言い、他の専門家との連携を否定する専門家でないか確認したNG確認✓
事業承継税制の特例計画の期限(2027年3月末)について言及があったか確認したNG確認✓
複数の専門家から見積もり・セカンドオピニオンを取った強く推奨
よくある疑問
事業承継の相談は、まず誰に連絡すればいいですか?▶
事業承継を専門とする税理士への相談が最初のステップとして最適です。株式評価・税制の活用・全体スケジュールを把握している税理士が、必要な他の専門家(弁護士・司法書士・社労士)を招集してくれます。「親族内か第三者か」「税制を使えるか」など方針が定まるまでは税理士を中心に動かすのが最も効率的です。ただし、争いが既に発生している・緊急の経営危機がある場合は弁護士が最初の相談先になります。
事業承継税制(特例措置)とは何ですか?使わないと損ですか?▶
事業承継税制(非上場株式の特例措置)は、後継者への自社株の贈与・相続に対する贈与税・相続税を最大100%猶予(要件を満たせば免除)できる制度です。特例承継計画の提出期限(2027年3月末)があるため、期限前に税理士と計画を作成することが急務です。ただし「猶予」であり、後継者が株式を売却したり廃業した場合は猶予税額が一括請求される点に注意が必要です。要件・メリット・リスクを税理士と十分に検討してから申請してください。
後継者に自社株を渡すと、他の相続人(兄弟)はどうなりますか?▶
自社株を後継者に集中させると、他の相続人の遺留分(最低限の相続分)を侵害する可能性があります。侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」ができるため、後継者が多額の金銭支払いを求められるリスクがあります。この対策として、①現金・保険金で他の相続人に代償を準備する②遺留分の事前放棄(合意)を得る③中小企業経営承継円滑化法に基づく遺留分の特例合意(後継者への株式の価値を遺留分計算から除外できる制度)を活用する方法があります。弁護士・税理士の連携が必須です。
後継者がいない場合、M&A以外に選択肢はありますか?▶
M&A以外にも複数の選択肢があります。①従業員・役員へのMBO(経営陣による買収)②親族外の第三者への事業譲渡③事業の一部を残して残りを廃業・清算④事業を後継者が会社ごと引き継ぐのではなく事業のみを売却(事業譲渡)する方法があります。「廃業するしかない」と判断する前に、中小企業庁の「事業承継・引継ぎ支援センター」(無料相談窓口)に相談することを強く推奨します。地域の事業を引き継ぎたい候補者とのマッチングを支援しています。
事業承継の手続きはどのくらいの期間・費用がかかりますか?▶
親族内承継の場合、準備から完了まで3〜10年が目安です(株価引き下げ・贈与の計画的実行に時間が必要)。M&Aは買い手探しから最終契約まで半年〜2年程度かかります。費用は承継の方法によって大きく異なります。親族内承継:税理士顧問料+事業承継設計費用(数十〜百数十万円)。M&A:仲介手数料(成功報酬で売却額の3〜5%が目安)が中心。事業承継税制を使わない場合は贈与税・相続税(億単位になることも)が最大のコストになります。
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