基礎知識 > 特殊ケース > 認知症の親が亡くなった場合

認知症の親が亡くなったときの
相続の注意点

親が認知症だった場合、相続では「遺言書の有効性」「遺産分割協議への参加」「成年後見制度との関係」など、通常の相続とは異なる問題が生じます。状況ごとに確認すべきポイントが変わるため、まず自分のケースを整理しましょう。

自分の状況を選んで確認する
遺言書が見つかった
認知症の相続人がいる
後見人がついていた
親が認知症で存命中
認知症だった親の遺言書が見つかった場合、「書いた時点で意思能力があったか」が有効性の鍵です。認知症 = 遺言無効ではありませんが、症状の程度・作成時期によって有効性が争われることがあります。
1
遺言書の作成日時を確認する最初に確認
遺言書の日付と、認知症の診断・症状の進行時期を照合します。診断前・軽度の段階で書かれていれば有効である可能性が高まります。
2
当時の医療記録・カルテを確認する証拠収集
作成時点の認知機能の状態を示す医療記録・介護記録・ケアプランなどを収集します。「意思能力があった」または「なかった」ことの証明に直結します。
3
公正証書遺言か自筆証書遺言かで判断が変わる
公正証書遺言は作成時に公証人が意思能力を確認しているため有効性が推定されやすいです。自筆証書遺言は本人が書いた証跡のみで判断されるため、争いになりやすいです。
4
無効を主張する場合は弁護士に相談訴訟も視野
遺言書の無効確認を求める場合は、家庭裁判所への「遺言無効確認の訴え」が必要です。証拠収集・訴訟対応のため弁護士への依頼が実質必須です。時効はないものの、早期対応が推奨されます。
相続人の一人が認知症(判断能力がない)の場合、その人を除いた遺産分割協議は無効です。認知症の相続人を守るため、成年後見人の選任が必要になります。
1
成年後見人の選任が必要協議前に必須
判断能力のない相続人が遺産分割協議に参加するには、成年後見人(または保佐人・補助人)が代理します。後見人がまだついていない場合は、家庭裁判所に選任申立てが必要です。
2
後見人は「認知症の相続人の利益」を守る立場重要
後見人は認知症の相続人の代理として協議に参加しますが、その人の利益を最優先にします。法定相続分を下回る不利な分割には同意できないため、「遺産を全部長男に」という内容には後見人が反対するケースもあります。
3
家庭裁判所への申立て → 後見人選任まで数ヶ月かかる
申立てから後見人が選任されるまで通常2〜4ヶ月かかります。相続税申告(10ヶ月以内)の期限を考慮して、できるだけ早く申立てを開始しましょう。
4
後見人選任後に遺産分割協議を実施する完了
後見人が就任した後、法定相続分を確保した内容で協議書を作成します。後見人が専門職(弁護士・司法書士)の場合、協議の内容について家庭裁判所への報告義務があります。
亡くなった方(被相続人)に後見人がついていた場合は、後見事務が終了します。後見人が管理していた財産の引継ぎ・精算という特有の手続きが必要です。
後見事務の終了手続き
後見人は死亡を知った時点で後見事務が終了。2ヶ月以内に管理計算を行い家庭裁判所に報告します。管理していた財産を相続人に引き渡します。
後見人が管理していた財産の確認
後見人が管理していた預金・不動産・有価証券などの一覧(財産目録)を受け取ります。この財産が相続財産になります。
後見人の報酬は相続財産から支払う
後見人への報酬(家庭裁判所が決定)は被相続人の財産から支払います。報酬額を確認した上で相続財産の総額を計算します。
後見人が相続人でもある場合
後見人を務めていた家族が相続人でもある場合、後見人としての財産管理に問題がなかったか他の相続人が確認する権利があります。使途不明金があれば問題になります。
親が認知症で存命中の段階での相続対策が最も重要です。早期に手を打つことで、将来の「資産凍結」「相続トラブル」を防げます。
遺言書を早めに作成する
軽度認知症でも意思能力がある間に公正証書遺言を作成できます。公証人立会い+医師の診断書で有効性を高めます。症状が進む前が最重要タイミングです。
家族信託の活用を検討する
信託契約を結ぶことで、認知症が進んでも子が財産を管理できます。後見制度より柔軟な財産管理が可能です。契約は意思能力がある間に締結が必要です。
任意後見契約を締結する
将来判断能力が低下した時に備え、信頼できる人を後見人として事前に指定する契約です。公証役場で公正証書として作成します。
生前贈与を急ぐ
意思能力がなくなると贈与契約も無効になります。節税目的の生前贈与も、意思能力がある間にしか実行できません。早期の節税対策が必要です。

成年後見制度の3種類を理解する
後見
成年後見人
判断能力が全くない・重度。後見人がほぼすべての法律行為を代理する。相続の遺産分割協議に参加できる。
判断能力なし
保佐
保佐人
判断能力が著しく不十分。重要な法律行為(不動産売買など)に保佐人の同意が必要。遺産分割にも関与。
判断能力著しく不十分
補助
補助人
判断能力が不十分。特定の行為のみ補助人の同意が必要。比較的軽度な認知症に対応。
判断能力不十分
後見制度を使うと、その後も継続的に費用(後見人報酬:月2〜5万円程度)がかかります。また一度開始すると本人が死亡するまで原則終了できません。利用前に家族信託など他の選択肢と比較することを推奨します。

認知症と相続で知っておくべき重要ポイント
  • !
    認知症でも「意思能力がある間」の遺言・贈与・契約は有効
    認知症と診断されていても意思能力が完全に失われるわけではありません。軽度の段階では有効な法律行為ができます。「認知症=何もできない」という誤解で対策が遅れるケースが多いです。
  • !
    口座が凍結されると家族でも引き出せなくなる
    金融機関が認知症を把握した時点で口座が凍結され、本人・家族も引き出せなくなります。介護費用・生活費の準備を事前にしておくか、家族信託で対策が必要です。
  • !
    認知症の相続人を外した遺産分割協議は無効
    認知症の相続人が署名した遺産分割協議書も、後から意思能力がなかったと判断されると無効になります。後見人なしの協議書は後でトラブルになるリスクが高いです。
  • 相続税申告期限(10ヶ月)は後見人選任を待たず進めることも可能
    後見人選任中でも、確定申告の準備・財産評価・他の相続人との調整は進められます。後見人選任後に遺産分割協議を行い、申告期限が近い場合は「申告期限の延長」申請も検討します。
  • i
    家族信託は後見制度より柔軟で費用も抑えやすい
    認知症が進む前に家族信託を設定しておくと、後見制度を使わずに子が親の財産を管理できます。毎月の後見人報酬が不要で、財産の使い方の自由度も高いです。ただし設定には意思能力が必要です。

よくある疑問
認知症の親が書いた遺言書は必ず無効になりますか?
必ずしも無効にはなりません。遺言書作成時点で意思能力があれば有効です。認知症の程度・進行状況・作成時の状態によって判断が分かれます。公正証書遺言で作成し、当日の医師の診断書を取得しておくことで有効性を高められます。無効を争う場合は「作成時点で意思能力がなかった」ことを主張する側が証明責任を負います。
後見人になれる人はどんな人ですか?家族はなれますか?
家族(子・兄弟・配偶者など)も後見人になれます。ただし家庭裁判所が審査し、財産管理のトラブルがある・複雑な利害関係がある場合は弁護士・司法書士などの専門職が選任されることもあります。申立て時に後見人候補者を指定できますが、裁判所が最終的に決定します。なお未成年者・破産者・過去に後見人を解任された人はなれません。
認知症の相続人が相続放棄をしたい場合はどうすればいいですか?
判断能力がない相続人は本人だけでは相続放棄できません。後見人(または保佐人)が代理して放棄の申立てを行います。ただし後見人は被後見人の利益を守る立場のため、放棄することが本人にとって不利益でないかを検討した上で判断します。プラス財産が多い場合は放棄が不利になるため、後見人が放棄に同意しないケースもあります。
認知症の親の財産を介護で使い込んだと疑われています。どうすれば防げますか?
介護をしながら財産を管理する場合は、支出の記録・領収書の保管・通帳のコピーなどを徹底的に残しておくことが最大の防衛策です。家庭裁判所の監督下にある後見制度を利用することで、定期的な収支報告が義務付けられ、使い込みの疑いをかけられにくくなります。また家族信託を活用して複数の家族が関与する仕組みにすることも有効です。
「認知症の親の遺言書の有効性が不安」
「後見人の選任を急いでいる」場合はご相談ください。
今すぐ相談する ↗